気の緩み… [最初の話]
メイサは白濁しているものの左目が開くようになり、順調に回復していると思われた。
おもちゃで遊んだり部屋を歩き回り、ベッドによじ登り私の肩に乗る。
ご飯も食べるようになり、ミルクもごくごく飲んだ。
もう大丈夫、メイサは元気になった。
そう、思っていた。
私は東京で小さな店を持っている。
週に一度は行って、仕入れや店の仕事をしている。
それと犬の保護活動もしているのでその用事などもあり
時には3~4日泊まることもあった。
木曜日の午後からメイサを連れて行く予定だった。
木曜日の朝、メイサを起こし、ミルクを飲ませる。
昨日まであんなに食欲があったのに、まったく飲まない。
1時間おきにあげてみる。
ササミをあげたりレバーをあげたりしてもまったく反応がない。
寝てばかりいて、扉を開けても出てこないのだ。
メイサはただでさえ痩せ過ぎている。
食べたり飲んだりしなければすぐに身体がもたなくなってしまう…
私は再び暗闇に突き落とされた気持ちだった。
約束があるので予定通り東京へ向かった。
付いて再びミルクやササミをあげてみるがやはり食べない。
メイサを東京のかかりつけの病院に連れて行った。
メイサの体温を測る。40.3℃
熱が出ていたのだ!
これでは食べないのも当たり前だ。
気が付いてあげれなくてごめん。
抗生物質を打ち、血液検査をし、虫下し、点鼻薬をもらう。
教えていただいた療法食の缶詰も買い、家に帰った。
ベッドの上でマフラーに包まれながらメイサは静かに眠っている。
メイサを見ながら私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
気が緩んでいたのだ。
自分でもう大丈夫だと勝手に判断してしまった。
命を助けるということはもっともっと難しいことなのだ。
私の気の緩みが、それを忘れさせていたのだ。
メイサ、ごめんね。
お母さん、もっともっと気をつけるから。
メイサ、ごめんね…
汚く暗く寂しい場所 [最初の話]
火曜日、リビングへの移動が出来なかったため私の部屋へとケージを運び入れた。
発泡スチロールハウスからやっとお引越し。
カーテンを開ければ外が見える、直に日が当たらないところ。
保温マットの上に犬ベット、その上にタオルを敷いて毛布を敷いた。
処分しようとしていた毛のマフラーを丸めてしばり、入れておいた。
何かの本で、子犬を保護した時に母犬や兄弟を恋しがるので
毛のマフラーなどを入れておくと安心する、と書いてあったのを思い出したのだ。
偶然にもメイサに似ている色。
メイサは安心したかのように寄り添って寝ている。
昨日の夜からミルクをあげる時、注射器ではなくスプーンですくって口元に運んだ。
ペチャペチャ…
飲んだ!飲んだ!やったぞ!
かなり感動した!
今日からミルクと鶏のささ身を細かくしたものをあげる。
メイサは喜んで食べた!よし!いいぞ!
すこしづつ、ゆっくりとよく噛んで食べる。
その姿に私は泣き出しそうにまでなった。
良かった…
すこし部屋に出してみる。
部屋中を探検するかのようにベッドの下に潜り込みたんすの下へと入り
それから鏡を見てびっくりしていた!
じーっと鏡の中の自分を見つめている。
なんて、可愛いの!
火曜日、水曜日と元気になっていった。
紐で遊んだりボールで遊んだりもするようになった。
お友達にもらった羽のついたおもちゃ。
ダウンロードは🎥こちら
何度も遊ぶ。
メイサの捨てられていた場所に行ってみた。
こんなに汚く冷たいところに2晩もいなくちゃならなかったのかと思うと泣けてくる。
どんなに 寂しかったか
どんなに 心細かったか
おなかも空いてしかたなかったろう
そして、こんなところで眠ったりはできなかったろう
よく生きていたと思う。
メイサの生命力には驚くばかりだ。
これからはおなかが空くことも、寂しいこともないんだよ。
安心して眠って。
ね、メイサ
左目の確率 [最初の話]
月曜日に病院へ行った。
先生はまだ、痩せすぎているのでもっと飲ませなさいと言う。
キャットフードも食べるならあげるように、と。
回数も増やしとにかく太らせるように、と。
離乳食の始まりだ。
何をあげたらいいのか…
ますますわからない。
先生に質問し続けた。
虫下しはしないでいいのか?→体力が戻るまで保留。
ワクチンとかしないでいいのか?→同じく保留。
風呂に入れたほうがいいのか?→同じく保留。
犬と一緒にしていいのか?→上記が全て済んでから。
そして目の事。
右目はもう大丈夫なようだ。
問題は左目。
白い膜に覆われていて閉じたまま開かない。
私「左目はもうダメですよね?」
先生「角膜がやられてるけど…まだ、わからない。もしかしたら確率的には低いけど大丈夫かもしれない。
でも、ほとんどダメだと思ったほうが…」
さらに追い討ちをかけるように
先生「この子は里親は決まらないかもしれないな。ヘルペス持ってるし、目もこうだし…
それを全て承知で貰ってくれる人は…限りなくいないだろうね…」
先生は正直な人だ。
私もその方がいいと思う。
気休めで綺麗事言うより、はっきり言ってくれた方がいい。
私の保護活動にも理解を示してくれ、保護犬が行った時にはかなり安くしてくれる。
今回は薬も無かったので無料で診て下さった。
いろんな人に助けられてこの活動があるのだ。
感謝しないといけないと思う…
きっとメイサの全てを受け入れてくれる人がどこかにいる…
メイサを幸せにしてくれる人が。
そしてその人はメイサによって幸せになれると思う。
だって、こんなにも運の強いコだもの。
絶対に幸せになれる。
絶対に…
少し元気に、でも… [最初の話]
ぐったりとしていたメイサが日曜日にはだいぶ元気になった。
今まで寝てばかりだったので、玄関に置いておいたのだが
発泡スチロールの隙間(空気穴代わり)から出ようとする。
様子を見に行くと蓋の上にちょこんと座っていた時もあった。
そこで、月曜日になったら病院に行って先生の許可が出次第
リビングに移動しようと考えていた。
ミルクは3時間おき、体重も計る。
557g
子猫の大きさ自体分からないので生後どのくらいなのか見当が付かない。
先生は1ヶ月くらいか、まだ、そこまでいってないかも?と言ってはいたが…
1ヶ月だとしてどのくらいの体重があればいいのか?
とにかくお腹の部分はぺったんこであばらも腰骨も浮き出ている。
肉、という部分がまったく見当たらないのだ。
ミルクも注射器であげないと自分からは飲まない。
最後のほうは無理やり飲ませている。
メイサ、 もっと飲んで。
たくさん飲んで。
早くガリガリの身体から卒業しよう…
ガリガリの子猫 [最初の話]
朝になっても子猫は生きていた。
でも、衰弱している様子であまり動かない。
蚤は相変わらずたくさんいて、他にうつるといけないので玄関に隔離したまま。
蚤をしつこくコームで取り続けた。
もう見当たらない。
こんなに小さい身体にこんなにもたくさんの蚤…
辛かったろうに。
子猫は発泡スチロールの中で、保温マットもあり、とても暖かいので大丈夫だと思う。
体温も普通になった。
朝からミルクを飲ませる。
注射器の針を取ったもので少しづつ、でも、強制的に。
生きてもらわなきゃ困る。
捨てた人間に思い知らせてやるんだ、幸せになって。
いけないけれどそんな気持ちがむくむくと湧きあがってきた。
顔を拭いて目やにを取り、鼻のガビガビもきれいに拭き取る。
点眼薬をさしたら片目が開いてきた!やった!
3時間おきにミルク、点眼。
うんちとおしっこをしないので教わったとおりお尻をちょんちょんするのだが
やはり出ない。
何も飲んでいなかったから?
明日出なかったら病院かな~と思っていた午後。
猫トイレにしてあった、小さいうんち。おしっこの跡もある!
何も教えないでちゃんとトイレにしたんだ、でかしたぞ!
しかも、子猫はトイレで寝ていた。
ちょっとうんちが付いていたけど抱き上げて頬擦りした!
夜には名前が決まった、“メイサ”だ。
メイサは漢語で“かりん”のこと。
息子が付けたのだが、とても気に入っている。
メイサ、頑張ろうね。
どぶの中にいた子猫 [最初の話]
先週の金曜日のことでした。
犬の散歩をしている時、どこからか猫が鳴いている声が聞こえた。
どこでもそうだとは思うけど、この辺も野良猫が多い。
家猫でも外に出している家が多い。
子猫の声だ、猫と生活したことが無い私でも何となくわかった。
声のするほうへ近づいていっても、見つからない。
遊んでいたのか、とホッとして通り過ぎようとした、その時!
田んぼの脇の排水路の中で動くものがある。
この辺は生活廃水もここに流す。
底がヘドロのようになっているどぶの様なものだ。
そこにさっきの声の主がいた。
小さな、小さな茶色い固まり。
あわてて家に戻りながら、自問自答した。
保護するということはその生き物の一生の面倒を見ること。
うちには犬が2匹、保護して里親を探している犬が1匹いる。
その上、初めての猫。
「どうする?どうする?責任取れるの?」
悩んだ、ぐずぐずと悩んだ。
その時、死んだかりんが頭をよぎった。
「かりんの生まれ変わりだと思え」
たぶん、神様か死んだおばあちゃんが私にささやいたのだ。
うちに着いて犬をハウスに入れ、キャリーとタオル、お財布、長靴を車に積んで
急いで戻った。
田んぼと農家の間の排水路。
どこから入ればいいのか分からない。
農家の生垣から入れてもらおうと庭先にいたお婆ちゃんに聞いてみた。
私「すみません、そこの排水路で鳴いているのはお婆さんちの猫ですか?」
おば「おととい男の人が投げていったよ、ずーっと鳴いてんの」
私「あの、助けたいので生垣の後ろを通らせてもらえませんか?」
おば「あんた、猫が欲しいの?」
私「いえ、欲しくはないんですが可哀相だから助けないと」
おば「うちも猫飼ってたんだけど、アメリカンショートヘアっていう高い猫。あんなのはいるけど(欲しいけど)
あれは要らないよ。」
私「あの、とにかく通らせてください」
おば「あんなそこら辺にいるようなの、拾ったって仕方あんめぇ。死んだっていいよ。」
私「…」
さんざん、あ~だこ~だ言って、田んぼのあぜ道から行くように言われた。
この時期の田んぼのあぜ道は私にとって恐怖の固まり。
苦手な虫がわんさかいる…。
「ひえ~!ひえ~!」
おっかなびっくり一歩一歩進んでやっと仔猫のところへ。
ここからがまた大変!
排水路まで5~60cmの高さがある。
仔猫はもう鳴かない、ヘドロに埋もれてじっとしている。
「やばい!」早く助けなきゃ!えい!っと降りて仔猫を掴み、タオルで包んでキャリーに入れた。
おばあちゃんは「あんたってバカみたい。」と言いながらさっさと家へ戻っていった。
急いで病院へ行き、ヘドロに埋もれたので洗わせて欲しいと看護婦さんにお願いしたら
綺麗に拭いてくれた…
ありがとう…
先生に診てもらうと「ヘルペスだね~、今夜辺りダメかも?3日が山だな。」と。
仔猫の目は目やにで開かず、鼻も黄色い膿で固まっている。
茶色い虫がたくさんいるので、先生に聞いた。
「先生、この虫はなんですか?」
先生は「蚤だよ。」……ひえ~!!!初めて見た~!
蚤取りもしてもらい、色々質問して目薬をもらって、ホームセンターで猫のミルクと猫砂を買って家へ。
とにかく保温をすること。
発泡スチロールの大きいのがあったのでそれに毛布をいれ、
保温マットも敷いて仔猫を寝かせた。
ミルクは注射器で飲ませたけれど力無い飲み方だった。
仏壇のかりんにお願いした。
「助けてあげて、お願い」
仔猫は2日間ろくに寝ていないはず、ぴくりともしないで眠っていた。